父や母の素顔を語るのは中々難しい。どうしても複雑な感情が入り込むし、自分自身を語ることにもなるからだ。ところが、この本の著者達は、古里の生活と情景の中で、実に淡々とそれを描いているから本当に面白い。
「三枝の礼」には、郷土の血を受け継ぐ方々が、意図せずして書き上げた五十六のドラマがつまっている。それは昭和という激動の時代を生き抜いていく親子のドラマであり、喜怒哀楽の中で育まれていく「人情の国・秋田」の世界である。
父親達はあの苦難の時代にあっても、概ね楽天的で、自分の好きな道をしっかりと生きている。それを支える母親達は、家事や酒食のもてなしに追われ乍らも、実に優しく、逞しい。そして素晴らしい教育者でもある。秋田出身の私には、ここに登場する主人公達やその頃のことが懐かしい。それは又、現代の日本が大事にしたい風景でもある。
日本生命保険相互会社 代表取締役会長 伊藤助成(書評より)
萌芽舎編